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日本農業経済学会の紹介

【会長挨拶 盛田 清秀】
盛田 清秀

 歴史ある日本農業経済学会の会長就任に身の引き締まる思いをしています。これから2年間、学会発展は言うに及ばず、日本の農業・農村と食料供給に学会としてどのような貢献ができるのか、会員の皆さんと考え、行動していきたいと思います。

 会長としてこれからの2年間の取り組みをお話しする前に、発足以来、日本農業経済学会と農業がどのように変化したかを簡潔に述べてみたいと思います。学会は、1924(大正13)年11月19日に神田の学士会館に発起人が集まり発足したとされています。このことは学会発足50周年を記念して出版された逸見謙三・梶井功編『農業経済学の軌跡-農業経済学会50年の歩み-』(農林統計協会1986年)の序文や座談会での東畑精一先生のご発言にある通りです。ついでながら、1996(平成8)年には70周年記念事業として中安定子・荏開津典生編『農業経済研究の動向と展望』が富民協会から出版されています。早いもので、2024(平成36)年には学会創立100周年を迎えることになります。100年を記念して学会として後世に何を残すのか、会員各位にもそろそろお考えいただく頃合いとなっていることを申し添えておきます。

 学会発足当時とは当然、農業と農業を取り巻く環境は激変しています。手元にある日本農業基礎統計、白書参考統計表、ポケット農林統計、その他の資料をもとに若干のデータを並べてみると次のようになります。
 1930(昭和5)年の総人口は6,445万人、有業者総数2,962万人、うち農業1,414万人で有業者に占める割合は47.7%です。これが2013(平成25)年には総人口1億2,639万人、総就業者数6,311万人、うち農業209万人、3.3%となりました。また1924(大正13)年の総農家数は544.7万戸、耕地面積合計は595.2万haですから1戸当たりでは1.09haなのですが、当時の自作農は166.9万戸のみで、小作地率は46.3%でした。「寄生地主制」とも称された地主制のもと多数の零細小作農が存在していました。それが戦後農地改革の結果、「戦後自作農体制」が成立、その後の国民経済の急速な成長を経て、2015(平成27)年には総農家数215.5万戸、耕地面積合計449.6万ha、1戸当たり平均が2.09haとなっています。農家数は4割以下となりましたが、日本農業の零細性は十分に克服されているとは言いがたい現状です。とはいえ、戦前と戦後を画するものはむしろ農業構造の質的違いともいえるもので、戦前の、地主=「大土地所有者」による零細小作農への農地貸付けという構図が、現在の、零細土地所有者による「大規模経営」への農地貸付けというように大きく変化しています。
 最近の経営面積規模拡大は顕著で、都府県に限定してもセンサスによれば2010(平成22)年の100ha以上経営体数313が、2015(平成27)年には422と1.34倍に増え、20ha以上経営体が経営している耕地面積が2010(平成22)年の32.7万ha(シェア12.8%)が、2015(平成27)年には41.5万ha(17.3%)と急速に増大しています。とはいえ、「大規模階層」(世界基準では中規模階層と言うべきです)が農業の太宗を占めるようになったと言える状況にはなっていません。

 さて、もう少し数字を並べてみましょう。1930(昭和5)年の産業別国民所得は117億円、うち農業は16億円、14%でした。2012(平成24)年の国内総生産(名目)は416.7兆円、うち農業は5兆7,301億円、1.38%です。貿易構造をみると、1930(昭和5)年の輸出額14.7億円、うち食料品1.29億円で、主な品目は魚介類(3,466万円)、砂糖(2,758万円)、小麦粉(1,448万円)、茶(839万円)などです。この時期は生糸4.17億円の輸出があり、農業が輸出産業として重要な地位を占めていたことがわかります。これに対し、2013(平成25)年の農産物輸入額は6兆1,365億円、国内農業総産出額は8兆4,668億円で、熱量ベースの総合食料自給率は39%です。

 このように、農業それ自体も農業を取り巻く環境も大きく変わりました。国民経済に占める農業の比重は、統計数字に表れるかぎり小さくなったといえるかもしれません。しかし、農業問題が日本にとり、世界にとって、そのウェイトを軽くしたとは言えないように思われます。それどころか、時には「経済のフロンティア」などと持ち上げられることもあるようです。農業問題はいまだにその重要性を失わず、いろいろな意味で社会的関心の対象になっている問題と言ってよいでしょう。

 それでは、農業問題がわが国で本当に正確に認識、理解され、国民の幸福に貢献する方向で議論の俎上にのぼっているかといえば、それには疑問符が付きます。それはなぜなのでしょうか。もっと生産的に、農業問題が国民の間で論議の対象となり、重要な国家戦略に関わる事項としてオープンかつ建設的に議論されてもよいのではないでしょうか。そして、それにはどうしたらよいのでしょうか。
 この2年間、そうした問題意識を持ちつつ学会運営に当たりたいと考えています。

 秋田大会の懇親会場での新会長挨拶で、私は学会の社会的プレゼンスの向上ということを申し上げました。図らずも会長に選出いただき、まだ方針めいたものは何も考えていなかったのですが、学会としての責務ということについては3期前の副会長を経験して以降、ずっと頭の片隅に置かれていた問題意識でした。

 では、そのために何をどうすればよいのでしょうか。これから組織的に検討を進めていきたいと考えています。そしてこの2年間でできることは実行したい、それも学会組織として目標に向けて具体的な仕組みを何らかの形でビルトインしたいと考えています。

 現在、やや漠然とではありますが、次の二つの方向での取り組みを考えています。
 第1は、農業政策形成との連携を強化できないか、ということです。私たちの組織は学会ですので、研究成果を踏まえた政策提案がベースになることは当然ですが、それを政策形成につなげていくことを意識することも時には必要だと考えています。

 第2は、農業・農村や食料の生産・供給に関する社会のリテラシーを深め、高めることへの貢献です。私は内閣府の審議会の末端に身を置いたことがありますが、安易で短絡的な議論が横行している印象がぬぐえませんでした。何かの既存組織や既存の法的枠組みを打ち壊しさえすれば日本農業が改革され、発展するかのような、科学的根拠もあやふやな議論が多いように感じたのです。むろん、既存の制度、組織の改革は必要ですが、要は、それを通じて何がどう変わって、どのように日本農業が発展するかの見通しが描かれるべきですが、それが欠けているのです。
 加えて、経済分析そのものの不足ないし限界という問題が絡んでいるように思われるのです。近年の農業問題が注目される際、市場メカニズムにより強く依存すれば問題が解決されるという単純な、あえて誤解を恐れずに言えば「教科書主義的なドグマ」に立脚した議論が散見されるように思います。こうした社会とその構造の十分な分析を省略した見解や考え方から、われわれ研究者は距離を置くことも必要ではないかと思われます。
 アンソニー・B・アトキンソンの『21世紀の不平等』(東洋経済新報社2015年)では96頁以下の数ページで労働市場分析をめぐって、グローバル化と科学技術進歩がどのように労働市場に影響を及ぼすかが検討されています。そこでアトキンソンは、経済分析における「背景」事情への留意が必要であることを説いています。要するに、過度に単純化した議論の有効性については、慎重であるべきだといっているのです。このことは同書で繰り返し述べられています。応用経済学である農業経済学でもこれは大いに傾聴に値する議論ではないかと思います。
 少し議論が本筋からそれてしまいました。この第2番目の課題に向けた取組みはいったいどのようなものか。国民、消費者、納税者に開かれた建設的な議論の展開に向けて、これから真剣に、かつ真摯な態度で、効果的な方法を探っていきたい、と考えています。

 以上、これまでの会長挨拶とはかなり異なるトーンとなってしまいました。これまでの生源寺会長、新山会長在任の4年間で、学会の組織と体制は大いに面目を一新し、改革と整備は進んだと理解しています。それを踏まえ、今期はこうした改革の成果を引き継ぎ、日本農業経済学会としての運営、行動の活性化を図っていきたいと考えています。どうか会員の皆様のご理解と行動参加を通じた叡智の結集を心よりお願い申し上げます。

2016年4月22日 記す

 

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