» 学会長あいさつ

日本農業経済学会の紹介

【会長挨拶 草苅 仁】
草苅 仁

 日本農業経済学会が、その歴史と規模において日本でも有数の学会であることは周知の事実であり、会長就任に当たり身の引き締まる思いです。日本農業経済学会は、2014(平成26)年3月29・30日に開催された神戸大学大会が創立90周年の記念大会に当たります。したがって、5年後の2024年には創立100周年を迎えます。日本農業経済学会の発足は、本サイトの沿革にあるとおり1924(大正13)年です。歴史の重みに学びながら、時代の要請との両立をどのように図っていくべきか、2年間の任期の中で会員の皆さんとともに考え、実践して行きたいと思います。

 歴史の重みはそれ自体が尊重すべき対象であることは言うまでもありませんが、このことは同時に、伝統が現状維持の契機ともなり、サンクコストの発生原因となる可能性を物語っています。サンクコストの発生は組織を保守化させるため、問題の先送りを構造化させることにもつながりかねません。こうした状況は、かつての日本農業経済学会も例外ではなかったと申し上げて差し支えないでしょう。幸いなことに、この間、副会長、会長特別補佐、連携委員などを務めながら、学会が抱える諸問題の改善に向けてリーダーシップを発揮された会長諸氏と、改革に取り組む役員の姿を間近に見てきました。はじめに最近の学会の取り組みを紹介したいと思います。

 学会創立90周年当時、私は新山陽子会長の下で企画担当副会長を務めておりました。記念講演を原洋之介先生にお願いするとともに、『創立90周年を迎えて存亡の岐路に立つ日本農業経済学会』という特別シンポジウムを企画しました。これは当時の役員が報告者になって、会員の皆さんと学会が抱える問題を共有し、その上で改善策を議論するという異例の企画でした。検討内容は、フルペーパーの投稿数不足、大会シンポジウムのあり方(エビデンスに基づいた報告と討論)、国際化・電子ジャーナル化の立ち後れ、赤字体質の財務問題、庶務(当時)体制の強化、2年間の任期で問題点を掌握し、業務の継承と発展を促すための工夫など、過去からの課題も含め多岐にわたり、新山会長の問題意識に負うところも大きかったと思います。このシンポジウムのタイトルは挑発的で、学会の品位にはややそぐわなかったかも知れませんが、多くの会員から関心を寄せていただき、問題の共有とその改善に向けた端緒となりました。

 この期の問題意識は次期の生源寺眞一会長に引き継がれ、生源寺会長の下で組織の刷新が実現しました。具体的には、従来の庶務体制を強化するため、副会長に総務担当を創設して学会運営の基本部分を掌握する人事を充実させたこと、これに関連して会長付きのスタッフと各種委員会によるラインとの役割分担を明確化したこと、委員会の改称をともなう所掌範囲と関係性の整理・見直しを図ったことなどが主な成果と言えるでしょう。

 さらに、生源寺会長は学会と農林水産省との交流にも尽力されましたが、この点は次期の盛田清秀会長へ発展的に引き継がれ、学会の社会的プレゼンスの向上を担う委員会として、盛田会長を委員長とする連携委員会が発足しました。それ以降、連携委員会は農林水産省との交流を重ねるとともに、学会大会において、農林水産省の行政官の方たちを座長や報告者に迎えたシンポジウムを、農林水産省の後援の下で開催するなどの実績を挙げています。学会の伝統を尊重しながら、こうした歴代の取り組みをさらに推進していくことは、今期においてもマストの課題であると考えています。

 次に、学会運営に当たり、学会という組織について、この機会に私見を述べたいと思います。本来、学会の組織とは、分権的であり、ボランタリーな任意団体であるはずです。それでは、なぜ私たちは学会を組織するのかという基本的な問いに立ち返るとすれば、学会の存在意義の根本は学問や研究の外部性にあると、私は考えています。この外部性とは、「ある個人がスマートフォンや携帯電話を使用することから得られる便益は、それらの使用者数全体に依存する」ことと似ています。例えば、論文を書く際に、先行研究を挙げ、先行研究に連なる当該論文の位置づけを明記すること自体も研究の外部性の具体例と言えるでしょう。学問や研究を対象に組織された任意団体が学会であるとすれば、学問や研究には外部性が存在するので、個々の会員はその活動や意思決定において自己完結的な存在ではありません。このことは、個人(会員)の最適化が、社会(学会)の最適化に、自動的には結びつかないことを意味しています。

 90周年記念大会の特別シンポジウムでは、「学会の現状を端的に表現するならば、3つのグループに分断された集まりであると考えられるため、それぞれのグループが合理的に行動すると、グループ間の分断はさらに強まり、学会全体としてのパフォーマンスが低下するという意味で合成の誤謬が生じている」という私論を述べました。「ある個人がスマートフォンや携帯電話を使用することから得られる便益は、それらの使用者数全体に依存する」ときに、例えば、それぞれのグループが周波数帯の異なるガラケーを使用することでグループ間の通信が遮断される事態となれば、個人の便益は急速に低下します。分断の解消に向けた取り組みも重要な課題であり、やや抽象的ながら、分断を超越して協調することにより、外部性がもたらすスケールメリットを享受することが解決の糸口であると考えています。

 私たちが21世紀を迎えた頃には、戦争やその後の冷戦体制が終わり、平和な世紀の到来を期待した人は少なくなかったのではないでしょうか。しかしながら、今日、国民の分断を煽って政治に利用する指導者が散見されることは、きわめて残念なことです。最後に、学会と社会との関係性について、これも私見を述べたいと思います。

 日本農業経済学会の創設者のお一人である東畑精一先生が初代所長を務めた農業総合研究所(現 農林水産政策研究所)の創立は1946年11月で、2016年に創立70周年のOB会が滝野川の地で開催されました。その席で、先輩研究員のお二人から、「D. リカードが「比較生産費説」を主張した時代から、世界や経済の有り様は大きく変化したのに、なぜ今でも「比較生産費説」が自由貿易の根拠であり続けているのか」と尋ねられたことが印象に残っています。その単純明快さゆえに、リカードの「比較生産費説」(または「比較優位論」)は自由貿易の優越性を担保するための理論的根拠であり、新自由主義やグローバリズムと親和的であることから、国内資源を比較優位部門に移動させることで貿易機会はさらに拡大し、世界経済も拡大するはずでした。しかしながら、グローバリズムの進展は、先進国では保護主義が台頭するという皮肉な結果、すなわち国家主義の台頭を招いたことも周知の事実です。現実には「比較生産費説」が想定するような資源の移動コストはゼロではなく、労働者の産業間移動コストを引き下げるための支援策を講じなければ、資源調達が国外に移動した産業の失業者は増加します。

 移動コストの存在自体、比較生産費説や新自由主義の論理がひとつの理念型であることを物語っています。また、自由貿易の優越性を支持するためには、「ある国が直面する貿易の機会は、その国の貿易政策に依存しない」という仮定も必要ですが、アダム・スミスが「ある一定の外国財貨の自由な輸入をどこまで継続するのが適当かが熟慮を要する問題になりうるのは、ある外国民が高率の税または禁止によって、わが国の製造品をかれらの国へ輸入することを制限する場合である。このばあいには、当然のことながら復讐心が報復を命じ、われわれもまたその外国民の製造品の若干または全部の、わが国への輸入に対し、同様の税や禁止を課すべしということになる」(A. Smith(1776)The Wealth of Nations:大内兵衛・松川七郎訳『諸国民の富』第4編第2章、岩波文庫(1965)78頁)と指摘した事態が、またもや現実味を帯びることとなりました。学会と社会との関係性を常に念頭に置きながら、農業経済学の発展と社会貢献を学会の使命として、会員の皆さんとともに実践していきたいと考えています。

 

トップページ
学会紹介
学会長あいさつ
会則・規則・細則
論文投稿規定
刊行物
大会情報
諸会議議事録
役 員・委員会委員
表 彰
会員登録
学会事務局
連絡先は学会事務局連絡先
〒104-0033
東京都中央区新川2-22-4
新共立ビル2F
株式会社 共立内
日本農業経済学会事務局

電話 03-3551-9896

FAX 03-3553-2047

Email office<@>aesjapan.sakura.ne.jp
※Eメールは、〈〉をはずして送信してください。

英文サイトへ

英文サイトは
こちらからご覧頂けます。

ご入会はこちらのページで

学会への入会をご希望の方は
上記フォームから申込み可能です。

会員情報修正ページへ

住所等の変更があった方は上記
フォームから修正をお願いします。
※入会に関する詳しい情報は
「会員登録のご案内」から
ご確認下さい。

「単語をクリックすると、その単語が付箋(=タグ)として張られた記事が一覧表示されます。大きいものほど使用頻度が高いタグです。